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人を信じるフィンランド

きのう、あるフィンランドの企業(フィンランド人ならおそらく誰でも知っている会社です)で働いた仲間のことをちらっと書きました。その勢いで、1年前のことを振り返ります。日本の方にぜひお知らせしたいこともあるのです。

このところの日本でのフィンランドブームのきっかけの一つに、フィンランドが国際学力ランキングの上位常連というのがあると思います。しかし、私が学力以上に興味があるのが、フィンランド人が「人を信用する」ということです。ごく限られた個人的な経験ですが、昨年の体験をお話したいと思います。

 応募はネットでした。世界中からの応募者を何人かに絞った段階で、いきなり、夜10:30ごろ、私の携帯電話に国際電話がかかってきました。そして、ありきたりの質問を3、4つされたのち、「最終選考に残っていて、多分大丈夫だと思います。また来週、確認の電話します」と言って、切れました。その間、10分もなかったと思います。

それから数日後、別の男性から電話がかかってきました。意思確認と、ヘルシンキにいつ来られるか、という事務的なことがほとんどでした。

 そして、10日後には全員がヘルシンキに集合し、4日ほど打ち合わせをしたら、それぞれが別々なスケジュールで世界中に散って仕事をしたというわけです。採用に当たり、面接なし。あとで分かったことですが、選考委員たちが別室で、応募者とインタビュアーの会話を聞いていたそうです。質問の受け答えなどで、人柄とかその仕事に向いているかどうかをある程度判断できるチャートのようなものがあると聞きました。そして、あとは、自分達の選択と、選んだ人たちを信じるのです。

非常に実験的な仕事だったので、アウトラインは決められていたものの、詳細な決め事もなし。「私たちは細かな指示はしない。関係者を傷つけない限り、何をしてもいい。建設的な意見なら、私たちは聞くよ」と、完全に信用してくれました。経費は、渡されたクレジットカードから支払うことになっていました。もちろん、予算は定められていましたけどね。

 日本の企業だったら、面接もせずに、自己申告の応募書類と簡単な電話インタビューだけで、外国人を雇うでしょうか? その会社の名前を語って、世界中に派遣させるでしょうか? それに加え、クレジットカードまで手渡すとは、完全に私の常識を超えていました。応募の段階から、うそをつくことだって、偽物の写真を添付することだって、十分可能だったのです。 

彼らは約束通り、仕事ぶりについて「指示」は一切しませんでした。仕事の一環でWordpressでブログを書き続けていたのですが、Wordpress初心者の私には、「もっと写真とか動画をアップしたほうが魅力的なレポートになるよ~」みたいなアドバイスが一度だけ来ました。初めてビデオをアップしたときは、「いいね!」と言われ、本当にそれだけ。そのあとは、「これこれの書類をお送りします」的な事務連絡が、時々忘れたころに来たな~。

何度となく強調された言葉:Be independent! 要するに、人を頼らず自分でしっかり考えてやんなさい、ということですね。このポリシーは、私がフィンランド人に抱くイメージそのものです。

一緒に採用された仲間とはFacebook内につくった「秘密のグループ」やブログ、メール、Twitterというソーシャルメディアでつながっていただけ。会社からは電話一本かかってこなかったので、あれこれ世話を焼く日本の会社カルチャーに慣らされた私にすれば、放りっぱなしにされて、心細かったのも事実です。

フィンランドとの往復を繰り返すうちに、機内で隣に座ったフィンランド人ビジネスマンとお話ししたときのことです。私からしたら“ありえない”採用プロセスについて、彼のお返事がふるっていました。

 「人を信じるというのが、フィンランドの伝統なんだよ」

 まー、どこまでこの言葉を真に受けていいのか分かりませんが、疑り深い日本人としては、心が洗われるような思いになったことは事実です。そして、この話を日本人にすると、ほとんどの人が驚き、感動してくれます。特に、伝統的な日本企業で息苦しい思いをしている私の弟など、「ほー」と言って、しばらく絶句しておりました。

 人を信じられる社会かどうか。どういう子供を育てようとしているのか。

そんなことを、フィンランドに行くたびに考えさせられます。フィンランドは人口がとにかく少ないから、一人たりとも無駄にできず、みんなに精いっぱい頑張ってもらわないと困るーーという事情もあるような気がします。だから、国民を信じ、可能性を信じて、全員を高めていく教育をするようになったのではないかなって。もちろん、フィンランドがパラダイスなわけではないし、詐欺だっているでしょうよ。でも、とりあえず信じようとしているような気がしてなりません。

「やれることは自分でやるのがフィン流だから、任せたよ」という感じで、私たちは実に自由に、そして、笑っちゃうほど真面目に、一生懸命働いたものでした。

仕事が終わってからもだらだらと仲良くしているのは、みんな、本当に楽しかったからだと思うのです。飛び回っていた最中は、ちょくちょく文句も言っていたけれど、終ってしまえば「夢のような仕事」でした。あの7週間は、本当は夢だったのではないかーー。今でもこんなに懐かしく回想するのは、徹底的に信用してもらったからですね。