フィンランドの人懐っこい鳥たち
フィンランド旅行も後半になり、買い物に燃えた日のことです。マリメッコの旗艦店で買い物をし、近くのスタンドみたいなところでアイスクリーム休憩していたときの出来事です。銀座の目抜き通りみたいなところに緑豊かな公園があり、人々の憩いの場となっています。
マリメッコでは、マダムな店員さんに親切にしていただき、買ったものをオリジナルのエコバッグに入れてもらって、すっかりご満悦の母↓
おいしいアイスクリームをシェアしながら、「あのワンピースはよかった」と語っていた時のことです。チュンチュンとか言いながら、すずめたちが近寄ってくるではありませんか。ふと、片桐はいりさんのエッセイのことを思い出しました。
最初のフィンラド旅行の後で読んだ彼女の『わたしのマトカ』の中に、すずめのことが出てきます。東京のすずめたちは、人見知りで、人と距離を置いていて、ちょっと近づこうものなら、ささーっと逃げてしまう。それにひきかえ、フィンランドのすずめたちは、実に人懐っこいというわけです。今回、それを実感しました。
まずは、「わたしのマトカ」から引用。
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ヘルシンキでは、わたしは毎日のようにすずめと朝食をともにしていた。
仕事に出かける前に自分で和朝食をこさえる時以外は、ホテルの向かいのカハビラで、キッシュや、サンドイッチをつまむのがわたしの日課だった。
いつもの時間に、陽の当たる外のテーブルに着くと、たいてい、一羽か二羽のすずめが隣の椅子の背のところにやってきた。
自分の口に運ぶのとおなじペースで、分け前を投げてやる。すずめたちはなんの躊躇もなく、わたしの投げたパンくずを目の前でついばんでいる。手のひらにパンを乗せて差し出したら、たぶん喜んで食べに来るのだろう。フィンランドのすずめは、日本人がすずめをまっぷたつにさいて、焼いて食べることを知らないのだろうか。
あまりに疑いを知らないその様子に、わたしは少し意地悪をしたくなり、いちどパンの代わりに足もとの小石を投げたことがあった。
すずめは怪しむ気配ひとつ見せず、そのいつわりのパンに飛びついた。そして騙されたことに気づいても、「すいませんまちがえちゃった。次のおねがいします」てな感じで、なんの屈託もなくわたしのもとに戻ってくる。
人間あまりに信用されると、悪いことはできなくなるものだ。
「君たちはなに、人にいじめられたことないのかね?」
「へい、いじめ? なんですそれ?」
などと語り合いながら、わたしたちは、フィンランドのぼそぼそのパンを分けあった。
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本当に近くまでやってくるんです。警戒心ゼロ!母の足もとで砂浴びをしている子は特に人懐っこくて、すぐにとなりのテーブルの上に飛び上がりました。その子が遊んでいると、仲間も引き寄せられてきて、私たちの周りにはすずめたちが何羽もいる状態になったほどです。
すっかり感激した母は、「お友だちをもっと連れておいで」なんて言い出す始末。片桐はいりさんが出会っていたのも、こういう、警戒心ゼロのすずめだったんだろうな~と、しみじみ思いました。ヘルシンキに来て、野鳥に癒された私たちです。
そして、その日の夕方は、ヘルシンキの港から船で渡る要塞の島スオメンリンナで、今度は、警戒心ゼロのカモたちに遭遇したのです。
あまりにも近くまで来るので、「なでなでしてあげるから、こっちにおいで」などと母が言うのが分かるのか、もう少しでさわれるくらいの距離まで、トコトコと歩いてやってきました。このカモたちも、一応(!)野生。私たちはエサなどあげてないのですが、過去に、何かもらった経験があるのかもしれません。その是非はともかくも、いじめられた経験がないことは明らかで、鳥たちから、フィンランドの魅力を伝えてもらったような感じでした。