趣味って何ですか?
日本語を勉強中の外国人と日本語で話をするボランティアを続けて3年以上たちますが、モンゴルからやってきた大学受験生のE君は、今までで最高に面白く手ごたえのある相手です。
彼には、ハッとさせられることが何と多いことか。
タイトルに書いたのも、その一つです。
私は、「このかわいい19歳男子は一体何が好きなんだろう?」というしょーもない好奇心から趣味を聞いたのですが、彼は本当に困った顔をして、
「趣味って何ですか?」
と私に尋ねるのです。もちろん、「趣味」という単語は習ったから知ってはいます。
「ぼくは、趣味という言葉の意味が分からないんです。趣味というのは、暇な時間にやることですか? 大好きなことで、忙しくてもお金を払ったりしてやることですか?」
この質問は深いですね。私もすぐには答えられませんでした。
彼の話を信じれば、日本語で「趣味」、英語で「hobby」が意味するような言葉は、モンゴル語に存在しないというのです。
E 君は、強いて言えば、という感じで、「勉強ばかりしていると運動不足になるので、時間を作って散歩をしています」と、一応答えたものの、「それは趣味ですか?」と、最後は私への質問になってしまいました。
考えてみれば、趣味という概念は、かなりぜいたくなものかもしれません。生きるか死ぬかという状況では、趣味もへったくれもないでしょうし、それほど差し迫っていなくても、日々の生活を回していくのに忙しければ、趣味なんて考える余裕はありません。モーレツ会社員時代の私のように……。
E君の話では、モンゴルでは子供も家のことをよく手伝うそうです。彼も小学校3年生くらいから、家族のために食事を作っていたといいます。だから、日本人が言うところの趣味のための時間は、かなり少なかったのだと想像がつくわけです。
とにかく、この19歳が繰り出す質問は、やたらと哲学的なことが多くて、そんなとき、私はだまるしかありません。
ところで、彼は本当に遊牧民の末裔なんだと感じたことがあります。E君は、手紙についてもピンとこないのです。このことが分かったのは、我が家でランチをふるまったときのこと。
「モンゴルではどんな文字を使っているの?」という、アホ丸出しの質問をしたときに、思いがけず、「キリル文字です」という返事が帰ってきました。そう、ロシア語の文字です。私は全然読めません。E君はロシア語も少し分かるというので、ウクライナからもらったばかりのポストカードを読んでもらおうと思って、彼に見せました。この段階で、私の認識としては、「ちょっと前まではソ連だったんだから、ウクライナ語もロシア語の兄弟みたいなもんでしょ」というおおざっぱなモノ。
すると、彼は、そのウクライナ語のフレーズを見るなり、「これはウクライナから来ましたか?」と、見事に当てちゃったんです! 驚きました。
どうして分かったかというと、キリル文字に混ざって、英語の「i」が使われいて、それは、キリル文字を使う言語の中でウクライナ語だけの特徴なんだというのです。E君のお母さんがウクライナに留学したことがあるので、そのことを知っていると言っていました。
さて、問題のウクライナ語ですが、「Happy New Year」という意味だそうです。いやはや、便利であることこのうえなし。彼が近くにいる間は、キリル文字が届いたら読んでもらおう(なんちゃって)!
解読が無事終わっても、そのハガキを彼はしばらく手放そうとせず、表と裏をためつすがめつしていました。切手にも見入って、さわったりしています。実際に使われたハガキを初めて見たような雰囲気でした。
現代の日本人はメールが当たり前になってしまって、手紙なんて出したことがない人も増えているでしょうが、それでも、年賀状のやりとりくらいは経験あると思います。DMや役所からの郵便物などは受け取ったこと、あるはずです。
農耕民族ジャパニーズは「定住」が当たり前だったので、私たちにとって「住所」は空気みたいな存在です。手紙を送る相手がしょっちゅう移動するということもほとんどなかったので、郵便制度も発達しました。一方、モンゴルの大草原をひんぱんに移動している人たちには、住所に何かを届ける行為はなじまないのかもしれません。メール全盛となった今では、手紙を出す人なんていないんでしょうね。
ちなみに、モンゴルの地方都市に住む日本人の友だちに、東京の郵便局から救援物資を送ったときは、きちんと届きました。モンゴルにも郵便制度は存在し、かつ、きちんと機能していることは確認済みです。
ふと、「モンゴルでポストクロッシングやっている人はいるのかな?」と思って調べてみたら、いるにはいます。日本人メンバーは4800人強(最大勢力はもちろんアメリカで4万人超。ロシアも約4万人、中国、台湾、ドイツもそれぞれ3万人以上)ですが、モンゴルは5人! いつかモンゴルからポストカードもらいたいなあ。