『世界から猫が消えたなら』とポスクロ
すごくいい本を読みました。
- 作者: 川村元気
- 出版社/メーカー: マガジンハウス
- 発売日: 2012/10/25
- メディア: 単行本
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とある病で余命を告げられた30歳男性(独身)が主人公。彼が身辺整理をしていく過程を、奇想天外な設定で笑わせつつ、ほろりとさせるストーリで、久し振りに心が泣いたなあという本です。
本の筋や表現の面白さは多くの方に広くお勧めできるのですが、私が個人的に
「そう、そう、そう、そう!!!」
と思った部分をご紹介したいと思います。あえていうなら、「三つ子の魂百まで」ということです。
主人公と父親は関係がうまくいっていないのですが、子供のころは普通に仲のいい親子でした。一家は猫を飼っていて、父親は旅先のフランスから、まだ幼い息子にあてて、あくびをしている猫の絵柄のカラフルな切手を貼った絵はがきを送りました。そのくだりが、すごく心に響いてしまったのです。筋とは関係ないので、ネタバレと言わず、お許しを~。
「投函されたハガキは郵便配達員に回収されて、パリの郵便局から空港へ。そして飛行機に乗せられて、日本に届き、僕の町へと運ばれてくる。その長い道のりを想像するだけで、胸がどきどきして眠れなかったのだ。」
そして、主人公はこの、手紙を受け取ったときの感じが好きで郵便配達の仕事を始めたということになっています。
この気持ち、すっご~く分かるんですよねぇ。手書きの文字がしたためられ、切手が貼られた1枚の紙が、地球のどこかから、何日もかかって、何人もの人の手を経て運ばれてきたことへのロマンーーそれが私をとりこにするんです。かかわった人のうち1人でも任務を果たさなければ、この1枚の紙切れが無事に旅を終えることは出来ないんです。信頼がすべて。こんな時代だから、私は余計に、そのことにしびれているのだと思います。
さてさて、話題を戻してーー。
子供の時の気持ちが大人になっても残っていたら、行動に影響を及ぼすという例が、私にも当てはまるんです。私の場合、職業ではありませんが、海外の似た者同士とポストカードを送りあうポストクロッシングを始めて以来、どっぷりとはまった理由が、父親からのプレゼントにあったことに、数か月前に気が付いていました。そこへ、この本のこのエピソードです。
『世界から猫が消えたなら』の主人公を「私」に、父親の旅先を「パリ」ではなく「大阪万博」(笑)に置き換えてください。
私の幼いころ、父は家族でただ一人、大阪万博に行きました。そして、話題のソ連館でポストカードを買ってきてくれました。
今まで見たこともないような色合いや絵の感じに、チビだった私(年齢がバレますねえ)は心浮き立ちました。私はそのポストカードを使うことなく、何と、この年になるまでず~と持っておるのですよ。何度か繰り返した引っ越しにもずっと持参していたんですね。それがこれです。
そのポストカードが運んできてくれた「外国の風」に頭がボーっとし、うれしくてうれしくて、もう、「外国」のことを知りたくてたまらない子供になっておりました。長じて、海外に非常に興味を持つ(偏っていますけどね)大人になりましたとさ。
当時は海外旅行はおろか、海外のニュースだって乏しく、まさしく「外国」という表現がピッタリだったと思います。
当然ですが、それからン十年、このポストカードのことは全くと言っていいほど忘れて生きていたのですが、ポスクロを始めてふと、
「ポストカードに私が抱くこの愛おしさ、なんか、デジャブなんだけど~。何だろう? そうだ! あれじゃないか!!」
と思い、引き出しを引っ掻き回して、原因のブツを発見しました。当時の日本の子供にはすごく新鮮だっただろうと思われる絵柄と色調です。今だって、胸キュンとしちゃう。
1枚も使っていませんから、12枚セットだったんですね。当時の値段で150円!
作家さんと思われる方の写真もありますよ。
2歳下の弟には、宇宙関係の絵はがきセットだったので、なぜかそのうちの2枚も入っておりました(私がネコババしたんかな)。
弟にこのポストカードセットのことを聞いてみたのですが、彼はまったく覚えていないので、ソ連からの風は彼には届かなかったんですね。
しかし、親が子供に与えるものが、場合によってはその子の人生を大きく(私の場合は小さいけど)左右しちゃうことはあるもんだ! 「世界~」の著者は、子供心にエアメールにときめいた経験をお持ちのはずだと、私は確信しております。